こんばんは、実は労務クラスタの片隅にちょっとだけいるタケルンバです。
「アリさんマークの引越社」における残業やら給与やらが話題になっているようで。
で、私も気になったのでいろいろ計算することにしました。
支給額の中身
番組で公開されていた給与明細の、支給分をまとめたものがこちら。
基本給 | 142,000 |
業務手当 | 20,000 |
家族手当 | 30,000 |
時間外手当1 | 31,417 |
時間外手当2 | 122,528 |
支給計 | 345,945 |
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労働単価の出し方
大まかに言って次の式で求めます(会社の細かな仕組みによって計算式は微妙に異なるので、詳しくは専門家までどうぞ)。
- 【基本給+(手当総額-除外手当分)】÷1ヶ月の所定労働時間
除外手当とは
次の手当などに関しては、残業代などの割増賃金を計算するときに算入しないことになっています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
ざっくり言うと「業務内容に関係ない手当は、残業代の計算に関係なし」ということね。根拠法令は労働基準法第三十七条、及び労働基準法施行規則第二十一条。
今回の例で言うと、家族手当の30,000円は除外手当扱い。基本給と業務手当の合計額である162,000円を使って労働単価を求めます。
1ヶ月の所定労働時間の出し方
分子となる賃金はわかったと。あとは分母となる労働時間。1ヶ月あたりの労働時間といっても、30日の月と31日の月があり、休日の数によっても異なる。というわけで、年間を通しての平均値で計算するのが一般的です。
- (365日-年間休日数)÷12ヶ月×1日の所定労働時間
年間休日数
8時間労働の会社だと、大体105日です。誰が計算しても大抵105日になります。理由は労働基準法によって週あたりの労働時間の上限が40時間になっているから。
1年は365日です。365日を7日で割ると52.14となり、年間では52.14週あることになります。これに週あたりの労働時間の上限である40時間をかけると、2085時間。これが年間での労働時間の上限になります。
では2085時間を日あたりの労働時間である8時間で割ってみましょう。260日という答えが出ます。そしてこの260日を年間の日数である365日から引くと? そう、105日になります。年間休日105日の根拠はこれ。
ちなみに同様に計算すると、8.5時間労働の場合は年間休日が120日になります。
1日の所定労働時間
このあたりになりますと労働契約次第であり、推測するしかないのですが、いくつかヒントはあります。
例えば、件の給与明細の勤怠欄を見ると、このようになっています。
出勤日数 | 27 |
総労働時間 | 342.8 |
残業時間 | 147 |
342.8時間のうち147時間が残業ということは、通常勤務の時間は195.8時間ということであり、これを27日で割れば、1日あたりの労働時間がわかります。7.25時間、つまり7時間15分。休憩時間が45分と考えると勤務時間が8時間となり、なんかいろいろ辻褄が合ってきます。労働基準法第三十四条に8時間以下の労働時間の場合は45分以上の休憩が義務付けられており、ドンピシャです。
計算してみよう
では材料が揃ったところで、実際に計算してみましょう。まずは1ヶ月の所定労働時間を計算します。
- (365日-年間休日数)÷12ヶ月×1日の所定労働時間
この式に数字を当てはめて行きましょう。
- (365日-105日)÷12ヶ月×7.25時間=157.08時間
続いて労働単価を計算します。
- 【基本給+(手当総額-除外手当分)】÷1ヶ月の所定労働時間
同じように数字を入れて行きましょう。
- 【142,000+(50,000-30,000)】÷157.08時間=1,031円
続いて割増単価を計算します。いわゆる「残業」である時間外労働は25%増し、深夜帯の時間外労働は50%増しになります。
- 1,031×125%=1,289円
- 1,031×150%=1,547円
以上となります。
不思議な不思議な時間外手当1
この計算結果をもって考えるまでもなく、時間外手当1の額は謎。
番組によると、会社側は、団体交渉の申し入れに返した回答で、1か月の労働時間のうち70時間を「みなし残業」で付けていた。
http://www.j-cast.com/2016/02/10258179.html
というわけで、31,417円が70時間分の残業代と思われるわけですが、単純に70で割った単価は448円。本来の残業単価は1,289円なので、3分の1。
一方深夜残業に関しては、残業の合計時間が147時間なので、残りの77時間が該当すると思われるのですが、時間外手当2は122,528円であり、77で割ると1,591円。私が計算で出した1,547円とそんなには違わない。
支給欄を見ても、そんなに複雑な構成になっていないので、どうして時間外手当1だけこんな計算になるのか謎。
時給449円のみなし残業については、監督課では、70時間までは働かないケースもあるので、労使で取り決めをすることは可能であり、違法とは言えないとした。
http://www.j-cast.com/2016/02/10258179.html?p=2
70時間まで実際には働かないこともあるし、その場合は労働者が得をするので、労使で合意しているならおkということだと思われる。が、しかしこうなると、どれだけ70時間まで残業しない月があり、本来払うべき残業代に対して会社が得をしているのか、労働者が得をしているのか、という計算が必要になってくるよね。
しかし、もし70時間働かせれば、割増賃金を払っていないことになり、違法の可能性があると言っている。
http://www.j-cast.com/2016/02/10258179.html?p=2
そして会社が得をしているとなれば、本来払うべき残業代を払っていないということで、労働基準法に違反すると。そういう話。
- 31,417円÷1,289円=24.37時間
本来の残業単価で考えると、時間外手当の31,417円は24時間ちょっと分。記事では「70時間」に焦点を当てているけども、実務的な話としては、毎月のように24時間以上残業しているかどうか。そのあたりがポイント。月単位ではそういう月があるが、年間通すと閑散期とかもあるのでおkとか。あるいは、閑散期でも残業してんよとか。そういう実態調査によって結論が変わる。
そしてこのあたりの実態に関しては、情報がフルオープンではなく、
こうした点について、引越社に取材したが、広報担当者が「係争中の案件になってきますので、現段階では回答できることはないです」と答えた。
http://www.j-cast.com/2016/02/10258179.html?p=2
と引越社側が「係争中」という言葉を使っているように、現在進行形の駆け引きがあるわけで。つまり都合の良い情報を出したり隠したりの駆け引き。客観的に見て、会社と労働者側、どちらがどういう情報を隠しているか、なかなか外部からはわからないのであります。どちらも係争に勝つために、都合良く行動するはずなので。
労務クラスタからは以上です。