業界関係者として、アパホテルのこの件はやっぱり書いとかねば。
全国にホテルを展開する「アパホテル」は、新型コロナウイルスに感染した軽症の人や症状がみられない人を全面的に受け入れる意向を政府に伝えた
アパホテル「軽症や無症状の人 全面的に受け入れ」新型コロナ | NHKニュース
これね、細かい評価は置いといて、アパホテルじゃないとできない話です。
オーナー創業者が社長
ちょっとね、雇われ社長じゃできない決断よね。がっつり株式を抑えていて、株主にあれこれ言われないからできる。
自社物件のホテル
ホテルにもいろいろな形態がありますが、借り物件じゃできません。家主が嫌がる。オーナーが断る。自分とこの土地・建物だからできる。店子じゃできない。
ホテルひとつあたりがでかい
こういう話に乗れるのは、そこそこの規模があるから。
「新型コロナウイルスに対応できる病床は現在750床確保している。その数を毎日増やしていて、月曜までには900床を確保する」
小池都知事「病床 月曜までに900床確保」新型コロナウイルス | NHKニュース
100床単位で必要な病床数が語られているわけですが、アパホテルならば100室とか200室規模のホテルを多く抱えているわけで、非常に現実的。
4月24日にオープン予定となっている両国駅タワーなんて1,111室だし。1軒貸し切りとなればかなりの病床不足を一気に解決できる。
但し問題もある。
ホテルスタッフは医療スタッフではない
これは二重の意味で。ひとつはスキル。もうひとつは待遇。接客のプロではあるが、医療のプロではないホテルのスタッフがどこまでできるのか。そしてそういう業務を「やらされる」ことに対して、どれだけの対価があるのか。常日頃から医療スタッフと比べて過不足なくお金をいただいていればともかく、そうでなければ現場離反しかねないんじゃないでしょうか。お金もらってないし、いきなりそんなことやれと言われても。当然そんな覚悟を持って職に就いたわけでもないでしょうし。
出入りの業者はどうする
ホテルって多くの人が働いているわけです。例えば清掃業者やリネン業者、それに関わる人材派遣。自動販売機があれば補充する業者さんも来ますし、いろんな備品の納入業者だって来る。そういう方々への二次感染防止はどうなのかとか。で、重ねて問題なのは、ここで例に上げた業者の多くは、他のホテルにも出入りしていることが多いんです。複数のホテルの清掃を請け負っている業者がある。そこで働くあるスタッフは、ある日はホテルA、またある日はホテルBで働く。このような状況下で、二次感染対策が疎かであれば、複数のホテルに感染が広がる可能性が出てくるのではないか。
というわけで、勇気ある決断であるとは思いますが、医療的な面でどうするかが鍵なのではないかと。アパホテルは場所貸しだけをして、人は出さないというのが現実的な落とし所かと思いますが、かといって医療人員も不足しているわけで、どの程度まで関わるのかという線引が難しい話だと考えるわけです。
宿泊業関係者としては以上です。
追記(2020/04/06 20:00)
アパホテルに続き、東横インも受け入れ表明。
東横インは伝統的に物件はオーナーが建て、家賃を支払って営業するスタイルをとっていたので少々意外だった。理解あるオーナーさんがいらっしゃったか、たまたま自社物件かのどちらかはわからないが、それにしてもよく決断したなあと思う。
都内のホテルの一棟貸しとなり、該当ホテルは専門家の管理下におかれ、医療体制を整えて対応しておりますので、近隣の皆様にご迷惑をおかけすることはございません。また、一般のお客様と感染者の方が同じホテルに滞在されることもございません。
Toyoko Inn - Hotel Reservation
安全面に関しても、一棟貸しということは人手は出さないと思われるので、本稿で指摘した懸念もクリアしている。
恐らくはこちらがモデルケースとなり、同様の事例は増えていくかと思われる。