タケルンバ卿ブログ

世界の片隅でだらだら生きる貴族の徒然帳

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店の数より人の数

 人材不足についていろいろ考えていたところにこういう記事があったので、ちょっと書いてみる。


「教育が徹底していることなどで定評があり、マックで働きたいという人が多かった。つい最近までは、働いているクルーの紹介でしか採用しないこともあったほど、買い手市場だったのに」

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/113000161/?P

 これはマクドナルドの往時を知っていれば誰しも感じる話で、こと従業員の採用という面に関し、マクドナルドは買い手だった。しかしそれには条件があって、それに合致していたから。

企業イメージが良かった

 今となってはという話ではあるけれども、以前はイメージが良かった。他のファストフード店がなかった頃は特に。「マクドナルドで働いている」というだけで「おーっ」という感じがあった。「働いてみたいな」と思う人がいても不思議のない雰囲気はあった。

時給も悪くなかった

 待遇面も悪くないイメージ。他のアルバイト、特に飲食業界で悪い水準ではなく、マクドナルドを避ける理由はなかった。また能力次第で時給を上げてもらえるイメージもあった。

 大きいのはこの二つ。自分の学生時代におけるバイト探しでマクドナルドについて思っていたイメージでもある。

 ちなみに「教育が徹底していること」にはプラスイメージはない。つか学生の頃、そんなことまで考える意識の高さなんて自分にはなかった。「如何に楽して稼げるか」がテーマだったわけで。「ほったらかしにされない程度の適度な教育」であれば問題ない。どうでもいいが、このあたりの認識のズレが求人人気の減退理由にもなっている気がする。イメージ悪化に手を打たなかったり、待遇を良くしないで、教育環境の良さだけを訴え続けるという愚策をして「人が来ない」とぼやくような展開は回避して欲しいところ。それじゃ来ないよ。

 閑話休題。話を戻して、先のイメージと時給という話だけども、これが良かったからマクドナルドは買い手側だったと思う。そしてイメージが悪化し、時給を上げられない(勤務を多く入れられない)状態になったから買い手側ではなくなり、マクドナルドよりもっとイメージが良く、待遇も良い同業他社に人が流れているということに思える。

(図1)常用的パートの有効求人倍率

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 政府統計の時系列データ表11-3から「飲食物調理」と「接客・給仕」を抜き出したグラフがこちら。毎年3月に人材不足の山があり、4月に年度替わりがあって新人の雇用があって谷ができるというパターンがあるが、全体的に有効求人倍率ば右肩上がりであり、飲食物調理と接客・給仕という分野は全職業の中でも有効求人倍率が高く、人材不足であることがわかる。マクドナルトに限らず、飲食業界全般に当てはまる話でもあり、同じく労働力をアルバイトに依存するコンビニなども状況は一緒だ。

 そして昨今の求人状況を肌感覚としてとらえるに、もうフルタイムの労働力は残っていないのかな、と感じる。フルタイムで働くような人はもう既にどこかに所属していて、ごくごくたまに辞めた人がいて、次の所属先を探しているという落穂拾いのような状態。

 では今どんな人が求職しているかというと、そのメイン層は「都合よく働きたい人」。今よりも条件が良いところで働きたいとか、働いてはいるんだがダブルワークしたいとか、結婚されて子育てをしている方のパート勤務希望とか。週5日フルに働きたい人はそんなにいなくて、隙間で働きたい。勤務後の21時から24時とか、土日だけとか、10時から15時までとか。あくまでも「都合よく」というところが重要なので、条件に合わないのであれば働かない。「別にいいです」となる。

 求人広告をいうくじを引いても、「週5日働いてくれて、しかも有能」という当たりくじは、宝くじ一等なみの低確率となりつつあり、「有能だが週2日」「ぼちぼちできるが、条件が多い」とかの微妙な当たりくじばかりで、「勤務数が合わない」「勤務時間が合わない」という条件が微妙なくじと、「残念すぎてどこも採らない」ハズレくじばかりというのが今の状態。そしてハズレばかりであることは知っているが、それでも当たりくじがある以上、くじを引き続けなければならんという現実が求人事情の実態。

人不足不況

 となると状況として見えてくるのは、人不足による不況がどこかで到来する。ものを売りたいが、売りたいが売る人がいない。ものを作れば売れるが、作る人がいない。需要の問題ではなく、供給側の事情による不況。利益はつかめるところにあるのに、つかむことができない。

 そして急拡大している業態、企業ほど危ない。人が追いつかない。人が足りない。しかし目の前に利益がある。食いつく。拡大する。しかし人がいないから足元が崩れる。崩壊する。

 例えばワタミ。不幸な事故があった。ブラックイメージがつく。客が逃げるだけではなく、従業員も逃げる。こうなると新たな人員を獲得して、新規の店舗を出すことが難しくなっていくし、従業員が減っていけば現在の売上を維持することも難しくなる。

 温野菜も同じで、これはフランチャイジー一社の問題にとどまらず、ブランド全体の問題になっていくし、このイメージ悪化によって新規求人はより厳しくなっていく。

 また状況として厳しいのは「他にも選択肢がある」ということで、悲しいかなこうしたチェーン店には同業他社があり、似たようなお店が他にもある。これは都市部に限らず地方でもそうで、マクドナルドやワタミ、温野菜の近くに何があるかを想像してみるとわかる。駅前なら他のファストフード、居酒屋、飲食店があり、国道沿いでも同様だ。(そしてこれこそがマクドナルドの経営環境が以前より厳しい理由でもある。昔と違って同業他社が数多くあり、しかもそうした他社がそれなりに魅力的だからだ)

 辞めても他がある。わざわざイメージが悪いところに応募することはなく、そしてどの店も人不足であるならば、イメージが良い順に応募していき、比較的良いところで採用が決まってしまう。となるとイメージが悪化したところは人の面において浮上できない。そして人が薄くなれば次の事故、不祥事の危険性が増す。負の連鎖が起きてしまう。

店の数より人の数

 従来飲食業界などでは、チェーンの規模を店舗数で判断してきた。店舗数の拡大がチェーンの拡大であり、企業規模の拡大だった。

 今後は店舗数を増やすだけでは意味がなくて、如何に従業員を確保するかが鍵になると思う。店舗の数だけ人を雇用をできるのではなくて、人の数だけ店舗を出すことができるから。余剰の戦力がないと規模の拡大もできない。

 押せ押せで急拡大するところよりも、地道にひとつずつ店舗を増やしていくような考え方がないと、人不足に対応できないような気がする。急拡大は店舗における人員不足を招き、人員不足は事故や不祥事を招く。事故や不祥事はチェーン全体の経営を圧迫する。店舗を増やせば増やすほど、チェーン全体の崩壊リスクを呼びこむ。

 イメージとしてはシールド工法的な経営がいいんだろな。掘り進めながらも着実に外壁とかを固めていく。ただ掘り進むだけではなくて固めつつ。攻撃だけではなくて守備ができないと、今後はなかなか難しい。まして企業イメージは傷つきやすく再生させづらい。

 とまあそんなもろもろを考えたわけでした。いや、本当に人採れんのよ。