タケルンバ卿ブログ

世界の片隅でだらだら生きる貴族の徒然帳

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じゃらんポイント詐欺について

 悪いことを考える人は、どこの業界にでもいるもんですなあ。


 じゃらんポイント詐欺。

宿泊客役の宇羽野容疑者と瑞慶山容疑者の宿泊所側が共謀して、付与されたポイントを使って3000回以上宿泊したと装い、サイト運営会社から総額約300万円をだまし取ったという。

<じゃらん悪用>「新規会員」と宿結託しポイント分現金詐取 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 ほう。

宇羽野容疑者は「3年前ぐらいから始め、1000万円以上をだまし取った」とも供述しており、瑞慶山容疑者の取り分も含めると被害額が2000万円に上る可能性がある。

<じゃらん悪用>「新規会員」と宿結託しポイント分現金詐取 (毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 余罪もありますかそうですか。

 とりあえず宿泊業にちょっとだけ詳しい立場から、ちょっと解説してみることにします。

宿泊施設と予約サイトの関係

 まず、こういう詐欺事件が起きた背景として、宿泊施設と予約サイトの関係を説明します。

 この両者はどういう関係かと言うと、メーカーと販売代理店の関係と思ってください。ホテルタケルンバという宿泊施設がある。そこに客室がある。自分だけでは売り切れないから、客室を販売代理店でも売ってもらう。そういう話です。

予約サイトの利益とは

 では販売代理店では何を利益にしているか。販売手数料がその源泉となります。

 ホテルタケルンバのお部屋を五部屋売りました。価格にして五万円でした。ですのでホテルタケルンバが得た五万円のうち一部を手数料として請求します。この手数料の率は予約サイトごとに違いがありますが、ビジネスモデルとしてはあまり違いはありません。

普通は宿泊施設が予約サイトにお金を払う

 上記のパターンが基本的なビジネスモデルなので、宿泊施設が予約サイトにお金を払う。これが普通です。

  • 宿泊客 → 宿泊施設 → 予約サイト

 このように宿泊に関するお金が流れます。ですので、この逆の流れは異常だと思ってください。予約サイトが宿泊施設にお金を払うというのはレアケースです。宿泊費用を宿泊客が宿泊施設で直接払い込む場合、そこに予約サイトがお金を受け取る余地はなく、後払いで宿泊施設から手数料を受け取るくらいしかビジネスモデルは成り立たない。

例外1:カード決済

 その中でも例外があります。ひとつはカード決済。事前にオンラインでカード払いする場合。この場合は予約サイト上で決済されるため、宿泊費用が宿泊施設に直接入らず、一旦は予約サイト側に入金されます。宿泊施設は宿泊客から宿泊費用をもらわず、その分を予約サイト側に請求することになります。

例外2:ポイント

 もうひとつはポイント。この事件では、じゃらんポイントというリクルートが発行したポイントを使っています*1。こうしたポイントは予約サイトごとにあり、例えば楽天トラベルでは楽天ポイントが使えます。

 こうしたポイントは予約時に使用することができ、宿泊施設にはポイント利用分を値引いた金額を支払います。そして宿泊施設はその値引いたポイント分を、予約サイト側に請求します。

しかしそれでも例外は例外

 このように一応は例外があり、予約サイトから宿泊施設に払うお金の流れもあることにはありますが、総量としては大したことがない。

 なので、予約サイトが宿泊サイトに対してお金を払っている状態が続けば、まあ普通は「おかしいな」となります。専門知識がないスタッフでも、商売の仕組みさえわかっていれば当然出てくる疑問です。

宿泊費用が安い施設しかできない詐欺

 今回の舞台となった宿泊施設は、いわゆるゲストハウスだそうな。

逮捕されたのは、那覇市前島のゲストハウス「パラダイス沖縄」を経営する瑞慶山文雄容疑者(54)

うその予約し現金詐取か ゲストハウス経営者ら逮捕 NHKニュース

 施設名も特定されています。

 サイトを見ると、ドミトリーの1泊料金が1,800円。これを見てなるほどと思いました。この料金が悪さした動機だなと。

 どういうことかと言うと、1名1泊1,800円。この料金で予約サイトから予約が入る。この手数料率が10%の場合、1,800円の10%ということで、予約サイトには180円払わなくてはならない。

 一方、その予約分で1,000円のクーポンを使ったことにする。予約サイトから1,000円もらえる。

  • クーポン代-(宿泊料金×手数料率)=宿泊施設の取り分

 こういう式になります。宿泊施設の利益は差額になるわけですね。この計算だと820円。

 仮に普通のビジネスホテルが舞台として、1泊5,000円とします。そうなると、手数料は10%だから500円。差額も500円。利益がだいぶ減ります。もうちょっと良さ気な1泊10,000円のホテルだったら、10%の手数料で1,000円。つまりチャラ。これでおわかりのように、手数料ビジネスなので、宿泊費用そのものが安い施設のほうが、券面金額は一定であるクーポンビジネスで儲かるという話なのでもあるわけです。

 (ちなみに手数料率がもっと安い予約サイトでやればもっと儲かるような気がするが、手数料率がもっと安いサイトは、安いだけあって入ってくる予約自体が少なく、規模が小さいため、不正がばれやすい。なので、こういう事件の舞台はじゃらんとか楽天トラベルになりがち)

 この朝日新聞の図、大変わかりやすいのですが、本当は宿泊施設からじゃらんへの矢印7番があるというところが重要なのであります。そしてこの図にない矢印7番があるから、宿泊費用の安い施設でこういう事件が起こったという話なのでもあります。ある程度大きな施設、大きなチェーンでは起こりえない事件であり、大きくなくてもバレバレだから、普通はやらないよね、という話なのでもあります。

 ま、ここまでばれなかったのは、運が良かったというほかありません。でも、いつかはバレるんだけどね。

 うす味宿泊業関係者からは以上です。

追記(2015/02/18 1:00)

 念のため。この事件で使われたポイントは、あくまでリクルートポイント。じゃらんは現在はポンタポイントに移行しているため、まったく同じ手口は使えません。

ポンタカードを持っていない客が買い物をした際、自分のカードにポイントを勝手に付与していた。

ローソン:店員、ポンタポイントを不正取得…自分に付与 - 毎日新聞

 しかしながら現にこういう事件がありました。このような手口で不正にポイントを取得し、取得者と共謀してポイントを不正に換金する人間がいれば、セット技として成立します。

 宿泊施設はゲストハウスやペンションなどの個人経営も多く、その経営している個人がダークサイドに落ちれば……という話で、幅広くポイントシステムが行き渡れば、その行き渡った中で最もセキュリティが弱いところにひずみが生まれるという典型に思えます。ポイントを不正に得やすいところで手に入れ、ポイントを不正に使いやすいところでお金にする。

 ポンタに加入している企業の店舗では、それなりにセキュリティが高かったとしても、じゃらんに登録している宿泊施設のセキュリティ意識が高いとは限らない。なにもこれはポンタだけではなく、Tポイントにしても楽天ポイントにしても、同じようなポイントロンダリングの問題があるよなあと思うわけであります。抜け道はどこにでもあるからね。

再追記(2015/02/18 2:10)

 時事によると1泊1,000円のプランを出していた模様。

瑞慶山容疑者がサイトに掲載した1泊1000円の宿泊プランをポイントで予約し、同容疑者がサイト側に虚偽の宿泊情報を送信して現金を受け取っていた。

時事通信ニュース:宿泊装いサイトから現金=ポイント制度悪用疑い−宿経営者と男逮捕・警視庁

 せこい。そして露骨。よく今まで事件化されなかったな……。

*1:現在じゃらんではポンタポイントに移行。